INDEX
2006年は協会改革の年〜TC協会総会レポート
2006年度のTC協会総会が、3月7日、東京芸術劇場(東京・池袋)の大会議室で開催された。
総会の成立
議長に選ばれた徳田直樹さん(運営委員)より、本日の出席者46名、委任状提出者数136名、合計出席者数182名となり、会則の規定に則り総会が成立する旨の報告があった。
2005年度事業報告案・決算案の審議
総会の議事がはじまり、まず高橋正明運営委員長から2005年度事業報告案の説明があった。
会員状況
2005年末現在、一般会員219名、法人会員82社で、一昨年末と比べて一般会員11名、法人会員6社の増加となっています。
2005年度の活動
2005年度は、「新しい協会をめざした総点検」を具体的に行ってきました。まず、「説明技術の確立」を担う5つの事業について見ていきます。「技術検定事業」ですが、TC技術検定は堅調に運営されています。ただ、ディレクション部門が伸び悩んでいるのが課題です。もうひとつのBC技術検定は、対象技術の絞込みの段階にあります。実施に向けては他団体とのコラボレーションも必要になるかも知れません。「育成・普及事業」では、協会主催の研修会などが着実に参加者を集めました。「TCシンポジウム事業」では、『脱皮』をテーマに掲げ、東京と大阪で1,380名という過去2番目に多い参加者を呼ぶことができました。なお、2006年度からは副幹事会社制度を廃止し、オペレーションは事務局主体で行うことが決定しています。「評価技術研究事業」のマニュアルコンテストは、応募点数こそやや減ったものの新しい賞を設けてマニュアルの別の面にも光を当てました。個別マニュアル評価も多くの申し込みを得ています。「調査・研究事業」では4つのワーキンググループがそれぞれ研究活動を進めています。
次に、「運営基盤の確立」という点ですが、ビジョン小委員会を組織して今後の協会の使命を検討してきました。
続いて、財務担当の黒田聡さんから、2005年度決算案についての説明があった。
2005年度の貸借対照表上では、正味財産の部で新しい項目を設けました。これから協会の組織を大きく変えていくために、「組織体制変更準備金」として200万円を計上しました。次に、収支計算書ですが、2005年度からTC協会は納税団体となったため、計算の明細が変わりました。協会が納入する税には、消費税と収益に対する税の2種類があります。最終的な収支ですが、当期の収支差額は711,500百円の黒字、次期繰り越し収支差額として630万円強を計上できています。
2005年度事業報告案・決算案の承認
以上の事業報告案、決算案は、いずれも満場一致で承認された。
2006年度事業計画案・予算案の審議
議事は、続いて2006年度事業計画案および予算案の審議に進んだ。
2006年度の事業計画案の説明は、ビジョン小委員会委員長の雨宮拓さんが行った。
2006年度は、「既存事業の見直しと改革」および「組織運営の改革」を推し進めていきます。「既存事業」とは、協会運営の柱である5つの事業ですが、そのそれぞれを概観していきます。「技術検定事業」では、TCを取り巻く環境の変化に対応できるような問題の作成などに着手します。「育成・普及事業」では、TC能力育成研修会の講師およびカリキュラムを見直します。「シンポジウム事業」では2005年度のテーマであった『脱皮』を受け継ぎ、脱皮後のTCの具体的な姿を明らかにするための企画を準備中です。全体テーマは『創ろう!新しい情報航海術』を予定しています。「評価技術研究事業」では、マニュアルコンテスト評価基準の見直しに着手します。「調査・研究事業」ではTC周辺領域との交流拡大をはかります。
「組織運営の改革」のためには、意思決定の仕組みと分担を明確にし、理事会を活性化するとともに、法人化を視野にいれた運営体制を検討していきます。さらに、事業構造を再点検し、財政基盤についても見直しを行い、改定の可能性を検討します。
続いて、黒田聡さんが2006年度の予算案について説明した。
2006年度の予算案では、当期収入合計を6,978万円強としました。一方、当期支出は7,258万円強で、マイナス280万円の収支差額は、前期繰越収支差額から基本金組入れ額への振替えで吸収するという形で予算案を作成しました。
2006年度事業計画案・予算案の承認
以上の事業計画案、予算案は、いずれも満場一致で承認された。
TC協会組織・運営体制改革案の審議と承認
この総会の大きなテーマは、これから予定されている協会組織、運営体制の大幅な改革案の審議。この改革案の策定に当たってきたビジョン小委員会委員長の雨宮拓さんが説明にあたった。
ここ数年、マニュアル制作関係者の中で、このままの手法でマニュアルを制作していては先行き明るくないとの認識が広まっています。いっぽう、TCとビジネスコミュニケーション分野の関わりにも関心が持たれ、TC協会の活動の裾野にも見直しが必要になってきています。これらの現状認識を背景に組織・運営改革案をまとめました。
改革の方向性
運営体制を、理事会中心の組織的なものに改変、TC技術およびその専門家の社会的価値を高めていきます。また、TC技術の応用範囲を拡大し、会員のスキル向上、活動領域の拡大をめざします。
改革の目的
最適な組織・運営の形態にいきなり移行するのではなく、その検討のための基盤作りを行います。
組織の改変
具体的には、評議員会を理事会に統合、理事会の審議機能を強化します。いままでの運営委員会を事業推進委員会に改組、協会事業の執行にあたります。また、理事会の下部に経営企画委員会を設置、協会運営の中・長期ビジョンの策定にあたります。
TC協会組織・運営体制改革案および会則改正案、新役員候補者案は、会場の審議を経て、満場一致で承認された。
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| これからも協会の発展に寄与したい、とあいさつする瀬戸さん |
カタカナ表記検討ワーキンググループを代表して、海保会長から表彰状を受け取る長崎正道さん(リコー株式会社) |
議事の最後に、2005年度のテクニカルコミュニケーター協会賞の授賞式が行われた。
TC協会特別賞は、日本マニュアルコンテストの実行委員責任者として長年コンテストの評価や実施の仕組みづくりに尽力された瀬戸大地さん(クレステック株式会社)、およびカタカナ表記に関する標準化活動を企業の枠を越えて推進してきたカタカナ表記検討ワーキンググループに贈られた。
そして、長年にわたり協会会長を務め、この総会を持ってその職を退くことになった海保博之さん(筑波大学)に、TC協会功労賞が贈られた。
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2005年度TC技術検定実施される
2006年2月12日(日)、「2005年度テクニカルコミュニケーション技術検定」が実施された。 昨年同様、東京(工学院大学)、大阪をはじめ、団体受験会場を含めて全国6府県6会場で行われた。今年は、新型インフルエンザや天候不順などさまざまなリスクが心配されたが、おおきな事故もなく、順調に実施された。第1回目が長野オリンピックの閉会式だったことを振り返ると、すでに丸8年9回の実績を重ねてきたことになる。
新しい枠組での試験も3回目となり、受験者数もほぼ昨年と同様で横這い状態だ。「マニュアル制作ディレクション」の受験者は減ったものの、「テクニカルライティング初級/上級」の両方とも受験者が増えた。受験率は、試験によっては多少の違いはあるが、全体で90%強で例年並みであった。
合格発表も、例年同様に3月下旬を予定している。受験者には申込書の住所宛てに、合否の通知が郵便で届けられる。また、東京会場、大阪会場については、TC協会のホームページでも合格者の受験番号が公開される。
なお、次回の「TC技術検定」は、同様の要綱にて実施予定で、9月上旬に本誌およびホームページ、シンポジウムなどで発表される。
●問い合わせ先
TC協会事務局 検定担当
Tel:03-3368-4607 Fax:03-3368-5087
ホームページ:http://www.jtca.org/ E-mail:tc-info@jtca.org
(担当:高橋尚子)
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記念講演「ヒューマンエラーを防ぐためのマニュアル作り〜認知心理学からの提案」
講師:テクニカルコミュニケーター協会会長 筑波大学心理学系 海保博之さん
総会に先立っての記念講演では、「ヒューマンエラーを防ぐためのマニュアル作り」と題して、この総会を最後に協会会長の任を離れることになった海保博之さんが次のようなお話をされました。
ヒューマンエラーを分類する
人間がなにかを為すときには、使命(MISSION)があり、それに基づいて計画(PLAN)・実行(DO)・評価(SEE)のサイクルを実行する。人間の行為の、このM-PDSの枠組みに沿ってヒューマンエラーを分類してみる。使命(行為の意義、大枠)の段階では、「使命の取り違えエラー」(やってはいけないことをしてしまう)がある。計画においては「思い込みエラー」(勝手な思い込みによるミステイク)が、実行においては「うっかりミス」(やるべきことをしない、余計なことをしてしまう)が、そして評価においては「確認ミス」(やるべきこと、やったことを確認しない)がある。
これから、仕事の手順書を制作することを念頭において、これらのエラーを防ぐための指針を探ってみたい。
使命の取り違えエラーを防ぐ
使命の取り違えエラーの例を、タクシーの運転手さんのケースで見てみる。この運転手さんの属している会社が「安全第一」を使命としている場合、「飛行機に乗り遅れそうだから空港まで飛ばしてくれ」という客に対しては「当社は安全運転第一。お急ぎならばほかの車を探してください」ということができれば正解。ところが、親切心からあえてこの使命を無視する、ということが起こりやすい。こういった使命の取り違えをさせないためにはどうすればよいか。手順書においては、「使命を明確に書く」とともに、「その手順で仕事をすることの意味や理由を明示する(納得させる)」ことが重要になる。
思い込みエラーをさせない
思い込みエラーを定義的に記述すると、ある状況のもとで誤った計画を立ててしまい、それを忠実に実行した結果生じるエラー、ということになる。たとえば、引越しで寝室のレイアウトが変わったにもかかわらず引越し前のレイアウトを想起してベッドにぶつかってしまう、など。思い込みエラーをさせないためには、手順書においては「新しい仕事の手順説明にはたとえや具体例を使ってわかりやすさを組み込む」、「違いを強調することで、誤った旧知識の投入をふせぐ」、「局所と全体、ミクロとマクロを往復することで適切な状況認識を導く」、「意義、因果を説明する」といった指針が考えられる。
うっかりミスをさせない
うっかりミスは、そのほとんどが注意不足から起こる。頻度からするともっとも起こりやすいのがうっかりミス。注意資源を正しく活用し、注意の自己管理のくせを知った上で手順書を作る必要がある。「フロッピーをセットしてください、というような、手順をマクロ化した表現は避ける」、「1動作ごとに1文を充て、そのとおりに操作できるようにメリハリをつけ、ビジュアル表現を利用する」、「予想される危険、エラーはあらかじめ書き、かつ起こりそうなところにも書く」といった方策がある。
確認ミスを防ぐ
エラーを防ぐために確認をするのだが、確認が習慣化してしまうと、確認することを怠ったり、確認そのものを間違える、ということが起こる。確認ミスは起こるもの、という前提で、「操作の結果を示す」、「確認行為も手順のひとつとして記述、指示する」といった対応が考えられる。
関西圏のTC関係者、テクニカルライターフォーラム2006に集結
2月22日、大阪市の中央電気倶楽部会議室で、「テクニカルライターフォーラム2006」が開催された。主催はテクニカルライターの会。「誰にでもわかりやすい説明を考える〜説明者と聞き手の新しい関係にむけて〜」を基本テーマとし、午後1時から5時まで、分野の異なる三人の講師の方による講演と、パネルディスカッション形式の自由討議が繰り広げられた。
講演1 頭脳スポーツを通じたコミュニケーション文化の創生
講師は、日本頭脳スポーツ協会理事長の前野茂雄さん。「頭脳スポーツ」とは、ボードゲームやカードゲーム、パズルなど、頭でするスポーツ、大きく捉えれば世界の国々で発達した文化の総称。国や世代、性別、障害の有無などに関係なく、人と人の触れ合い、コミュニケーションを創造するための有効な手段だという。
■お話より
- 感覚的コミュニケーション能力とは。
@自分に対しては嘘はつけない。
A自分からみた自分がいちばんわかりやすい。
B自分を相手に置き換えてみる。
C相手からみた自分に自分を置き換えてみる。
この4つのポイントから導かれるのが感覚的コミュニケーション能力。
- いやいややったことは記憶にのこらない、身につかない。
- 大人と子供が同じ目線に立ったとき、子供が大人に教えるという現象も生じる。
講演2 教師が子供たちに期待するマニュアル活用能力
講師は、大阪教育大学音楽科教育学助教授の田中龍三さん。子供たちにパソコンのソフトを使って作品を作らせようとするとき、子供たちがソフトをストレスなく使いこなせるかどうかが重要になってくる。そこで、田中さんは小中学校の教師を中心とした「マニュアル実践活用プロジェクト」のメンバーとして、Adobe社のソフトを子供に使ってもらうためのマニュアルを制作した。
■お話より
- 子供の学力の評価ポイントは、
@関心・意欲・態度
A知識・理解
B思考・判断
C表現・技能、である。
- マニュアルに対する「知識・理解」とは、製品で何ができるかを知り、書いてあることばを理解し、そのとおり操作ができること。
- マニュアルに対する「思考・判断」とは、製品でしたいことができるかどうかを考え、書いてあることばから予測し、別の箇所に書いてあることを組み合わせて活用すること。
- マニュアルと「表現・技能」の関連は、マニュアルをとおして、これがしたい、これができればこれもできる、と進んで、機能を使う技能を身につけることにある。
- マニュアルは、子供たちの学習への「関心・意欲・態度」を育てるものでなければならない。
講演3 『作って楽しむ!ジャストホーム3銘品工房〜虎の巻〜』制作事例
講師は、株式会社ジャストシステムの近藤和恵さん。近藤さんは、平成元年ジャストシステムに入社。現在、製品制作部ライティンググループに所属、製品添付のマニュアルやヘルプの制作に携わっている。今回の講演で事例として取り上げた『作って楽しむ!ジャストホーム3銘品工房〜虎の巻〜』は、TC協会の日本マニュアルコンテスト2005で部門優秀賞と最終審査委員特別賞を受賞した作品である。
■お話より
- ジャストホーム3はシニア向け。したがって、マニュアルもシニア(55歳以上)の初心者をターゲットとする作り方をした。
- シニアの声を反映させるため、インタビューを実施するとともにシニアネットというユーザーグループのメンバーに監修を依頼し、アドバイスを受けた。
- 説明のしかたとして、一文を一操作に対応させ、画面を多用し、とにかく手順どおりに進めていけば操作が完了するようにした。
- シニア世代はマニュアルに対する期待が大。単に文字や画面を大きくすればよいということではなく、シニアが製品を使う場面を想像し、陥るかも知れないトラブルをどれだけ事前にフォローできるかがポイント。
講演のあと、関西大学文学部総合人文学科助教授の比留間太白さんが座長を務め、三人の講師のかたがパネリストとなって、参加者も加わった自由討議が行われた。まず、比留間さんが人・対象・モノの関係を集団活動の場に拡張したモデルを紹介。「頭脳スポーツ」ではモデルの各要素は具体的にどうなるか、「教育」ではどうか、と検証し、さらに話をPCやソフト、マニュアル、コミュニケーションに展開していった。
(担当:高橋尚子)
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テクニカルライターの会
関西の企業や大学が中心になって運営される団体。「製品とユーザーの橋渡し」をいかに達成するかを共に考え、共に議論する場を提供することを活動の目的とし、定例会を年6回程度、フォーラムを年1回のペースで開催、その扱うテーマはマニュアル技術にとどまらず多岐に及んでいる。
■事務局
(財)関西情報・産業活性化センター地域振興事業部「テクニカルライターの会」
TEL: 06-6346-2981 FAX: 06-6346-2443
e-mail: tw-staff@deliver.kiis.or.jp
Web: http://www.kiis.or.jp/trn/tw/index.html
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森口先生の連載コラム
てぃー・しー 今昔(五)
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プロフィール
北海道大学文学部卒業。米国南部工科大学テクニカルコミュニケーション修士課程修了。高校英語教諭、英文雑誌記者、機械翻訳アドバイザー、メーカーの社内テクニカルライター、フリーランス翻訳者等を経て、現在、広島国際大学助教授。専門はテクニカルコミュニケーションと辞書学。業績として、『ウィズダム英和辞典』(共著)、『日本語を書くトレーニング』(共著)、『電子辞書活用ハンドブック2005』(共著)などがある。 |
科学と技術、歴史と未来
米国に留学していたときティーチングアシスタントとして工学系の学生に日本文化を教えたことがある。その時、少し意地悪な質問をしてみた。「科学と技術はどちらが先か?」学生の反応は「なぜそんなわかりきったことを聞くのか。科学に決まっているじゃないか」というものだった。そこですかさずこう言った。「君たちがそう答えると思っていた。しかし、これから紹介する日本の技術を考えて欲しい。ニュートン力学を知らない奈良時代の技術者たちは世界に誇る木造建築を残した。現代医学の基礎を持たない漢方医や鍼医たちは様々な病人を治療していた。少なくとも日本の科学技術史を見た場合、科学が技術に先立つとは言えない」
科学と技術の違いを端的に言えば、理屈と結果と言って良いだろう。科学の理屈は言葉で語られ、技術の結果はモノで見せられる。言葉による説明がなくとも、モノを見せることによって技術は伝えられる。この連載で日本史上のTCを紹介してきたが、実物によって技術を伝えてきた伝統の中では、実は貴重な例なのである。
では日本に科学はなかったのか。否。江戸時代には、純粋科学の極と言ってもよい和算の伝統があった。ただ、和算は独自に微積分の概念を発見していながら、秘伝として伝えられたためTCの入り込む余地がほとんどなく、技術とも結びつかなかった。
その日本において科学と技術が大きく歩み寄ったのは恐らく幕末の開国がきっかけだろう。欧米の文物が大量に輸入されたこの時代、翻訳も含めたTC関係の文書が数多く残されたはずである。残念ながら、私の日本TC史研究はまだ幕末に至っていないが、古代・中世・近世のTCの歴史を整理した後に、じっくりと調査してみたいと考えている。
さて、今号でこの連載は終わるが、連載を始めるとき、編集長から一つの要望をもらっていた。「ビジネス誌などでは、“信長・秀吉・家康から学ぶ部下の管理力”のような特集をやることがあるが、あんな感じの記事ができないだろうか」というものである。
確かに歴史上の人物の行動や人間関係を現代のビジネスになぞらえるのは面白い。しかし、それは対象が人間だからできることである。TC史における主人公は技術とそれを説明する文書である。建築のように技術の結果が残っている場合もあれば、火薬製造マニュアルのように文書だけが残っている場合もある。いずれにせよ、そこに人間行動を直接見ることは難しい。
それならば、TCの歴史から現代のテクニカルコミュニケーターが学ぶべきものは何か。あまりにも漠然とし、かつ、青臭い言い方かもしれないが、「歴史の流れ」と「誇り」ではないかと私は思う。
我々が歴史を学ぶ理由の一つは未来を知るためである。「歴史は繰り返す」という言葉通り、現象として現れてくるものは違ってもその底にある流れは変わらない。だからこそ歴史の流れを見据え、現在の自分の位置を知れば、未来を予測することができる。
太古の昔、職業という概念はなかった。歴史時代に入っても、たとえば、武士と呼ばれるプロの軍事集団が現れるのはせいぜい平安以降である。兵農が分離し、更にその中で職能や階級が分離していく。エントロピーが増大するかのように、分離・分化の流れは続き、現代において専門分化が甚だしいことは万人の知るところである。
TCも同じ流れをたどる。この連載に登場した歴史上の人々を思い出していただきたい。経典を講じた聖徳太子、火薬調合の問い合わせ先だった籾井某、砲術秘伝書を書いた鉄砲上手たち、『本草和名』の著者・深根輔仁、『医心方』の編者・丹波康頼。彼らは皆それぞれが説明すべき知識の専門家であって、テクニカルコミュニケーターではない。そこまで遡らなくとも、つい最近まで技術者自身が取扱説明書を書いていたのである。やがてテクニカルライターというプロが生まれ、TC協会が設立され、専門知識からTCが分離した。現在は、そのTCからウェブデザイナーやユーザビリティーの専門家が生まれてきている。つまり、TCの分化が始まっている。
分化はさらに続き、恐らくは3つの方向に分かれるだろう。一つは、モノ作りへの同化。私自身、メーカーでマニュアルを書きながらユーザーインターフェースの改善案を出したこともある。ユーザビリティーの専門家の誕生はまさにその方向である。次に、TCツールの専門家。聖徳太子の紙と筆に比べ、ツールは格段に進歩した。TCの技術をベースにしながらもツールを使いこなすこと自体が専門技術となってくる。ウェブデザイナーはその走りと言える。三つ目は、TCのコアである「わかりやすく伝える技術」を伝える教師。学校現場だけでなく、社会全体を対象とした広い意味での教育ビジネスと考えたい。事実、私のように教壇に立つ人間がいるだけでなく、TC関係者が書いた啓蒙本が多数出版されている。
最後に、TCの歴史から学ぶべきもう一つのもの、「誇り」に触れてこの連載を終わる。「テクニカルコミュニケーター」という職業の歴史はまだ浅い。しかし、その技術ははるかな昔から必要とされてきた。我々はその歴史にもっと誇りを持ってもよいのではないか。TCはともすれば技術の影に隠れがちな存在だが、その歴史が聖徳太子にまで遡ることを思いプロとしての誇りを絶やさずにいたいと思うのである。
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シリーズ TC 最・前・線
シャープ株式会社
会社プロフィール
1912年創立。その発明品であるシャープペンシルが社名のルーツ。世界初の電卓開発や液晶ディスプレイの製品化など先端分野を切り開きつつ、「エレクトロニクス技術を通じて21世紀生活を創造するオンリーワン企業」を目指す。
シリーズTC最前線の第6回は、大阪に拠を構えるシャープ株式会社を訪問。CS推進本部のサービス企画推進部長石崎俊郎さんと同本部信頼性技術センター副参事の中島総一郎さんに、商品と説明書の使いやすさ向上をめざすユニークな取り組みについて伺いました。
シャープの説明書制作の特徴をずばりお願いします
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責め合っていてもよくならない
石崎俊郎
ユーザビリティーグループに説明書制作経験者をひっぱってきたら思わぬ効果が。商品そのものの使い勝手が悪いとか、いや説明書が悪いのだとか、お互いに責め合っていても何もよくなりませんからね。 |
信頼性技術センターの中に、主にユーザビリティー向上に取り組んでいるグループがあります。商品の使いやすさを全社的に向上させよう、というグループです。ここに、一昨年、事業本部で取扱説明書の制作を担当していた者が加わりまして、それにより、商品単体だけで考えるのではなく、商品と取扱説明書を全体としてわかりやすくしようという動きがでてきました。事実、商品と説明書の両方が使いやすければ、ただちにシャープのブランドイメージが高まります。もちろん、顧客満足度も上昇します。
というと、以前はどうだったのでしょう
説明書は、各事業部で制作していました。これはいまも変わっていないのですが、以前は説明書は説明書だけで考え、その作り方の基準をCS推進本部が指導していただけでした。
それが、ユーザビリティーのグループと合体した、と
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製品と説明書、両方がよくならなければ
中島総一郎
製品の使い勝手と説明書の使いやすさの両方がよくなることの効果は計り知れません。会社のブランドイメージアップ然り、お客様からのコール激減然り… |
そういうことです。ところで、ユーザビリティー向上のベースとなるのはユーザビリティーテストです。信頼性技術センターでは、20年ほど前からテストルームを設け、一般のお客様に商品を操作してもらいそれを観察し、使いにくい点などをすくい上げて事業部にフィードバックする、ということをやってきました。そして、さらに説明書の専任が加わったことで、わかりにくい説明書に対しても、改善の提案ができるようになったわけです。商品と説明書を結び付けて総合的に改善する力を得た、とでもいいましょうか。さらにいいますと、シャープを特徴づける商品群、つまりデジタル家電の製品・説明書の使いやすさ向上に特に力を注いでいます。
確かに、デジタル家電にはきちんとした説明が必要ですね
そういうことです。ところで、ユーザビリティー向上のベースとなるのはユーザビリティーテストです。信頼性技術センターでは、20年ほど前からテストルームを設け、一般のお客様に商品を操作してもらいそれを観察し、使いにくい点などをすくい上げて事業部にフィードバックする、ということをやってきました。そして、さらに説明書の専任が加わったことで、わかりにくい説明書に対しても、改善の提案ができるようになったわけです。商品と説明書を結び付けて総合的に改善する力を得た、とでもいいましょうか。さらにいいますと、シャープを特徴づける商品群、つまりデジタル家電の製品・説明書の使いやすさ向上に特に力を注いでいます。
事業部トップの方は理解してくれるのですか
トップが自社製品を購入したときに説明書がわかりにくければ、なんとかしろ、高齢者にもわかりやすい説明書を付けろ、ということになります。そこで、実際に高齢者の方々を相手に意見収集を行い、改善案を作ります。DVDレコーダーの例ですと、ビデオデッキと比較することでDVDレコーダーとはどんなものか示す、という試みをしました。ビデオデッキのユーザーはまだたくさんいるというデータに基づいてのことです。
グループ内で製品と説明書の使いやすさ向上機能が合体した効果大、ということですね
ええ、製品ユーザビリティーだけ追求していても、説明書の改善だけやっていても、ここまではできなかったでしょうね。
(取材・構成:小谷 洋一)
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私のコミュニケーション考
株式会社富士通ラーニングメディア 庄司 優
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1949年生まれ。1968年富士通株式会社入社。CADシステム開発等SE業務を経て研修部門で約20年コンピュータ顧客教育を担当。パソコン関連製品の進展を機にマニュアル改善に取り組み、TC協会立ち上げに参加。現在は、富士通ラーニングメディアで研修ビジネスの推進に従事。 |
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ある識者は「認識せずして評価するな」との名言を残した。様々なコミュニケーションの場において、この言葉は本当に肝に銘じる言葉であると思っている。
例えば、巷のうわさを鵜呑みにして発言しない、良く内容を調べずに書かない、自分の思い込みで判断しない、相手の状況を良く聞かずに話さない等々、コミュニケーションが成り立つためには、まず、対象とされる側(相手)を正しく認識することが大切である。
本稿では、このような視点に立って、過去の様々な出来事をたどっていくつか思いつくまま述べたいと思う。
今から20年ほど前の話である。富士通製品のマニュアル改善の一環として全社マニュアルコンテンストを企画した。企画の意図は、良いマニュアルを見つけ出しそれを真似ることにより、品質を徐々に向上させるといった循環を作り出そうということである。さらに、執筆者個人の努力を評価することによりモチベーションを上げていきたいということもあった。さて、基本的な狙いは関係者の賛同を得たものの、評価については喧喧諤諤である。その主な論点は次のようなものであったと記憶している。一つは、一般消費者向けのパソコンのマニュアルから専門技術者向けのソフト開発マニュアルまで、様々な読者を対象とするマニュアルをどう評価するのか。もう一つは、通常業務で使っていない評価者が見ても適切に評価できるのか、といったことである。第一の課題は、対象読者分野ごとにカテゴライズし、評価基準や評価技術を磨いていこうということで合意をみたが、第二の課題は難問であった。つまり、評価対象の認識において、客観化をいかにして実現するかである。製品と使用者の間の橋渡しとなるマニュアルの役割から見れば、実際の使用者にとって、使ってみて役にたったかどうかが大事なポイントであろう。そこで、応募者には、使用者のアンケートを添付させることにしたのである。もちろん、お客様の記名のうえである。それは、応募者にとって高いハードルではあるが、自分達のマニュアルをお客様がどうみているか、客観的に把握する上でも、また、マニュアルの評価者にとっても「このコメントは自分の考えと同じだ」と自信をもって評価するのに役立ったようである。
もう一つマニュアルに関することで、述べたい。
マニュアル作成の専門集団組織化の議論をした記憶がある。マニュアルは誰が書くべきか。製品開発者が書いたほうが効率的で正確である。また、もともと製品自体の開発において、使用者のことを考えて設計・開発しているはずだ。否、製品開発者とは別な人が書くべきだ、それは、製品を使用する立場で書くことにより、開発者では気が付かないことや更に製品改善への指摘を受けることもでき、むしろ、そうすべきである・・・といった議論であった。今振り返って改めて考えてみたが、開発者が書こうと開発者とは別な人が書こうと人の問題ではなく、対象読者やマニュアルの目的などをどれだけ深く認識して書くかが重要というのが小生の結論である。
このことに関して、以前プログラム言語関連のマニュアル改善のためテクニカルライターと称する専門家に作り直してもらったが、確かにわかりやすく平易にはなったが、冗長でかえって使いにくいとの意見が出た。これなどは、対象とする読者モデルの事実認識を間違えた典型的なものであったと思う。
また、作業指向で書くか機能指向で書くかといった議論も真剣にやった。今は、作業指向で書くのがあたりまえといった考え方が主流であるが、当時は、コンピューターに携わる人達もある程度限定され専門家が多かったように思う。したがって、機能をきちっと書けば、あとは読者が作業を想定してマニュアルを活用できたが、コンピューター利用の一般化に伴い、自分の作業のなかで豊富な機能をどう組み合わせどう使っていくか、多機能化とあいまって、作業指向となってきたように思う。これなどは、読者認識の変化として重要なポイントである。ただし、携帯電話のマニュアルなどは、読者の利用度も進み、昨今の厚いマニュアルが必要なくなる時代がくるように思う。大事なことは、これまでの経験や思い込みで一律に作るのではなく、認識も変化、変化ということである。変化を読み取るにも、現場感覚をもって、日々の研究、勉強を怠らず精進していきたいと自戒も含めて取組んでいる昨今である。
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TC-INFORMATION
会員企業一言メッセージ
株式会社創英
会社概要
コミュニケーションとツールの専門会社として、創業42年を迎えたデザイン制作会社です。
企業から発信するハウスオーガンなどPR誌の企画・編集を始め、セールスマニュアルなど教育系資料の企画・制作や、商品の販売促進ツールから取扱説明書までの企画・制作などを主な業務としています。 マニュアル制作について
創英では、取扱説明書などのマニュアル類を単なるユーザーサポートツールではなく、企業にとって重要なSPツールと考えています。
実際の制作では、その商品をブランディングやマーケティングの視点から捉え、より有効な形態やデザイン表現を考案し、「見てもらえる」、「使える」取説の内容作りを実践しています。 協会にひとこと
創英は、この10年TCシンポジウムの一来場者として参加しておりましたが、入会後は、シンポジウムを始めとする協会の各活動に参加しています。その活動を通じて、少しでも協会のお役に立つことができ、より良いマニュアル作りに生かせればと考えています。
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協会短信
新聞・テレビがTC協会をさかんに報道
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| ワールドビジネスサテライトでマニュアルの現状を説明する徳田さん |
昨年の秋頃から、日本のメディアがTC協会の活動を取り上げるケースが増えています。『月刊消費者』は10月号でTC協会を紹介しました。会員企業の積極的なアピールもあり、産経新聞が2005年12月24日付けの大阪版経済面、次いで12月29日付けの東京版経済面で、協会主催のマニュアルコンテストを報じました。それを受け、フジテレビの朝の番組「とくダネ!」ではキャスターの小倉智明さんがTC協会の活動を高く評価。また、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」にはTC協会運営委員のひとりである徳田直樹さんが出演、日本のマニュアルの現状を伝えました。何かとコミュニケーションの不備が取り沙汰される昨今、「コミュニケーション」を活動のコアとするTC協会がマスコミに取り上げられるのも自然な流れでしょうか。
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協会の活動
理事会報告
2005年度第4回の理事会が、3月1日午後3時より、TC協会事務局(東京・新宿)で開催されました。まず例年どおり、来る総会に向けての2005年度事業報告案および決算案の審議、そして2006年度事業計画案および予算案の審議がなされ、承認されました。もうひとつの大きな課題は、TC協会の組織・運営体制改革案についての審議と承認。改革案作りの任に当たっていたビジョン小委員会の雨宮委員長から改革案の骨子の説明がありました。組織改革のポイントは、改革の背景、目的を踏まえ、従来の運営委員会を総括し、新たに理事会の下部組織として経営企画委員会を設置、協会運営の中長期ビジョンを策定して理事会に具申する、というもの。また、評議員会を理事会に統合、理事会は従来以上に協会ミッションの検討と運営の実際にコミットすることになります。この案も、審議の結果承認されました。
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TC協会ニュース 第71号 2006年3月25日発行
●次号は2006年5月25日発行の予定です。
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