TC協会ニュースWeb版 第70号
ビジョン小委員会の中間報告まとまる
ビジョン小委員会委員長 雨宮 拓(オフィス・スクリプタ)
TC協会ニュース68号で既報のように、2005年7月、TC協会の基本理念やビジョンを見直し、さまざまな事業の課題や解決策の検討、協会の組織や運営方法の改革案の検討を目的として、ビジョン小委員会が発足しました。その後、役員へのアンケートや各専門委員長とのミーティングなどを重ねる中で、11月には協会全体の課題や各事業の中長期的課題を整理した中間報告をまとめました(中間報告の概要は以下の通りです)。今後は、来年の総会で会員の皆さんにご理解いただけるよう、協会の活動ドメインやミッションを明確にするとともに、組織・運営の改革案についても基本的な方針を決定すべく検討を続けていきます。
協会全体の課題
- 協会は、TC技術の向上と普及による社会的貢献を進めることにより、TC分野の専門家を育成し、その地位を高めるとともに、マニュアルをはじめとするさまざまな文書の品質向上を支援する。これらの目的を実現するために、関係者間の情報共有と交換、共通のスキル向上、スキル認定、成果の発表や表彰などの側面支援や基盤づくりを担う。その結果として、協会会員が個々に作成するマニュアルなどの文書の社会的価値が高まることを期待する。
- ユーザーニーズの変化、操作説明と画面表示の一体化、製品情報伝達メディアの多様化、マーケットのグローバル化などを背景として、マニュアルに求められる役割が大きく変化している。マニュアル制作スキルや制作体制も、それに伴って変化を求められている。
- 協会は、従来のマニュアル制作技術の見直しを進めると同時に、次の3つの領域に会員の活動の場を拡大していく。
- Webサイトや電子マニュアルなど、電子的に提供される製品情報の品質向上と制作の効率化。
- 操作メッセージやユーザーインターフェース設計を含めた「インストラクション」分野への参入。
- Webライティングや一般的な文書作成を含む「ビジネスコミュニケーション」スキルの普及による底辺の拡大。
TCシンポジウム事業の中長期的課題
- シンポジウムは、業界の動向を見きわめTC協会から積極的な情報発信を行うための場として機能してきた。また、技術検定、評価、育成・普及、調査研究などTC協会の他の基幹事業にとって、発表、交流および広告宣伝に不可欠の機会でもある。安定的にシンポジウムの開催を継続していくことは、協会全体にとって重要な課題である。
- 幹事会社制度を安定的に維持するため、担当順序の組み替えや、新たな企業の参加を含めた中長期的体制の確立が必要である。
- 企画メンバーの活性化をはかると同時に、当面は分科会セッションの数を絞るなどの対策によって企画負荷の軽減をはかる。
検定事業の中長期的課題
- 検定事業は、TC技術の統一された水準を設定し、マニュアル制作関係者のスキルを認定するための全国的な標準として機能してきた。今後は、マニュアルを取り巻く環境の変化に対応するとともに、TC技術の底辺拡大を目指したビジネスコミュニケーション(BC)分野における事業展開が求められている。
- BC検定については、TC検定との関係を意識して、検定事業全体の体系を再検討すべき時期を迎えている。
- 従来のTC検定コンテンツは、マニュアルを取り巻く環境変化を吸収しきれず、制作環境の現状とかけ離れた面が生じているいるため、技術要素や試験実施方法などの見直しが必要になっている。
評価事業の中長期的課題
- 評価事業は、優れたマニュアルを表彰することにより、TC技術における新たな創意工夫を促進するとともに、TC関係者の意欲を喚起する役目を果たしてきた。また、有償のマニュアル評価は、ユーザビリティテストなどの手法を取り入れることで、会員企業個別の要望に対応するサービスとして定着している。
- マニュアル評価ガイドラインについて、抜本的な見直しを2〜3年の期間をかけて進める。当面は、そのための体制整備について検討する。
- コンテストにおける評価ガイドラインの運用方法、一次審査への配点の見直しについては、来年度から具体的な方策を実施する。斬新なマニュアル企画や優れた紙面のデザインに対する賞を2005年度から新設したが、今後も継続する。
育成・普及事業の中長期的課題
- 育成・普及事業は、さまざまな研修プログラムの実施によって、TC関係者に共通するスキルを普及するとともに、専門的なスキルを備えた人材を育成する役目を果たしてきた。
- 「TC能力育成」、「TCシンポ特別セッション」、「TC検定受験対策」、「技術研修」という、4つの柱を維持する。そのためには、専門委員についても講師についても、新たなメンバーの掘り起こしと全体としての戦力アップが不可欠である。
調査研究事業の中長期的課題
- 調査研究事業は、協会の活動ドメインを拡大するうえで人的ネットワークを強化し、新たに挑戦すべきテーマを掘り起こすために、従来以上に大きな役割を果たす必要がある。調査研究は、将来のTC協会の基盤を強化するために、きわめて重要な意義を持っている。
- マニュアル制作関係者が、Web制作、ユーザーインターフェース、ビジネスコミュニケーションなどの隣接分野の専門家と協働する機会を増やしていくことが調査研究事業の中長期的な課題である。
- TC協会の会員企業から、調査研究テーマに関する積極的な提案、人材投与を従来以上に引き出していく必要がある。
(取材・構成 小谷 洋一)

TC協会この1年
TC協会事務局長 三堀邦夫
今年も押し詰まってきました。協会事業も皆様の多大なるご協力により、ほぼ計画通りの活動ができたと感謝しております。協会の今年について、基幹事業を中心に振り返らせていただきます。
TCシンポジウム事業では、業界全体に漂う閉塞状態に対する危機感を拭いさる思いをこめて、「脱皮」という直接的なテーマで開催。参加者の共感を得、17回目(大阪は7回目)の今年は、近年にない盛り上がりをみせ、東京、大阪開催で合計約1400名もの参加をいただきました。特に参加者のニーズが紙から電子メディアに移行しつつあることを証明するようにWeb系技術に関するセッションに多数の関心がよせられました。来年度は、「脱皮」後のTCをテーマに、新たな運営体制のもとに企画内容を練り上げていく計画です。
評価技術研究事業では、マニュアルコンテストの応募点数が約90点を数えました。その特徴として、第1に製品の多機能化にともない単に取り扱い情報だけでなく使い方を提案する新しい形のマニュアルがふえたこと、第2に最適なデータ形式や作成アプリケーションによって作成された洗練度の高い電子マニュアルが多かったことがあげられます。また、シンポジウムテーマの「脱皮」と歩調をあわせ、特別賞として「見開きデザイン賞」と「企画賞」を新設しました。10年目の節目を迎え、使う側のニーズにそった評価基準の見直しを図るとともにWebマニュアルの評価の今後の方針について検討することになっています。また、評価サービスは、年1回のコンテストとは異なり、いつでも必要なときに自社のマニュアルに特定の観点から評価がなされるということで、依頼が着実に増えてきています。
育成・普及事業では、昨年末からの試みとして、制作関係者にとって非常に関心の高いドキュメント制作ツールの最新事情についての技術研修会を、株式会社アドビシステムズ様の全面的なご協力により大阪を含め4回開催することができ、いずれの回も会場が満席という盛況ぶりでした。
技術検定試験事業では、これまでご要望の多かった試験結果の通知について、学科、実技ともに100点満点に換算して合否とともに全受験者に通知するサービスをスタートしました。TC技術検定の来年度の試験日は、2月12日です。検定対策勉強会とともに多くの方のお申し込みをお待ちしています。また、検討中の「ビジネスコミュニケーション(BC)技術検定」は、受験対象をはじめ、対象とするBC技術や対象文書の絞り込みが終了しました。検定試験としての実現までには、課題も多く、慎重に計画を進めていきます。
調査研究開発活動では、従来からのニューメディア開発協会からの受託調査の他、会員を中心とする自主的なワーキンググループによる研究活動が活発化してきています。継続中の「カタカナ表記」、「Webコミュニケーション」のグループに加え、10月にはコンシューマー製品を対象とする取り扱い説明に関する規格(IEC62079 Part2)の原案を作成するための「標準規格」ワーキンググループが結成され、活動を開始しました。
さて、最後に協会運営面に触れたいと思います。マニュアルを取り巻く環境は、体制、技術、人材そしてユーザーニーズなどあらゆる面での変換期を迎え、マニュアルの社会的役割も変わってきています。創立時の協会のビジョン、ミッションや運営体制などの見直しが必要な時期にきたといえます。そのため、運営関係者を中軸とする「ビジョン小委員会」を新設し、協会の今後の方向を見据えた役割、運営体制などを再定義し、変革していくことにしました。当然ながら、協会の事業基盤の確立とは表裏一体のもので、前述した各活動を事業として維持拡大しなければなりません。そのためには、日本の現状と同じく、支出面での削減抑制、年会費の改訂、新たな事業の開発などの具体的な施策の検討が必要となります。どれとて、実施には大きな壁をのりこえなければなりません。私見ではありますが、これらの課題を解決するには現状の会員ボランティアの皆様に支えられた運営体制の継続なくして、実現は不可能と考えています。同時に、運営関係者一同も最善の施策を模索し、協会の今後の運営改革にも努力していきたいと思っています。なにとぞ、皆様のこれまで以上のご理解とご協力をお願い申し上げます。
結びにあたり、本年の皆様の協会活動へのご協力を重ねて感謝するとともに来年の皆様のご健勝とご繁栄をお祈り申し上げます。 
標準規格ワーキンググループ発足−協会、現実に即したIEC62079の原案作りに参画
標準規格ワーキングループが活動を開始しました。最初のミッションは、取扱説明の国際規格であるIEC62079、Part2の原案作り。この規格は、IEC/TC3/ドキュメンテーション分科会が担当しており、ワーキンググループのメンバーには同分科会の国内委員が含まれています。同規格は、翻訳されてJIS化される予定にもなっています。
現行のIEC62079は2001年2月制定のものであり,現在のようにWebなどの電子媒体が発達した時代には少々内容が古い部分があります。さらに、プラントなどの大規模システムを対象とした記述が多く家電製品など売り切りのコンシューマー製品に適用するには無理な部分もあります。
TC協会では、Webにおける製品機能に関する情報をユーザーに製品の使い方を知らせる重要な取扱説明情報と位置づけており、ワーキンググループでは、今回の原案でWebにおける取扱説明の定義を明確にし、他の部分の記述もコンシューマー製品に適用しやすいものにしていく予定です。
(徳田 直樹:標準規格ワーキンググループリーダー)

理事会報告
2005年度第3回理事会が、11月7日、TC協会事務局で開催されました。運営スタッフによる各事業の進捗報告とならんで、今回の大きな話題となったのはビジョン小委員会の活動中間報告。ビジョン小委員会は、(1) TC協会の社会的価値を見直した上で協会のミッションを再定義し、(2) 各事業の問題点を洗い出して解決策を検討し、(3) 協会組織の改善案を策定して、これらの素案を運営委員会に報告することを目的に、今年7月に発足しました。
まず、小委員会委員長の雨宮さんが、協会全体の課題や協会各事業の課題および今後の具体的な方向性の検討がどのように進んでいるかを説明。それに対して、理事側からは、「協会の運営において人的リソースの不足があるなら遠慮なく相談してほしい」と、小委員会を中心とする協会ミッションの明確化、運営体制の見直しを積極的に支持するコメントが出されました。また、「多くの事業があるが、それぞれの事業ごとに充分な議論が必要」との指摘に対しては、「議論すべき課題は多い。これらを一気に処理することは事実上困難なので、プライオリティをつけて順に検討していく」と雨宮さんが答えました。 (取材・構成:小谷 洋一)

TCシンポジウム「大阪開催」も大盛況
 |
TCシンポジウム2005「大阪開催」が、10月6日と7日、天満研修センターで開催された。集まった参加者は270名。これは、7回を数える大阪開催では1999年、2000年に次ぐ3番目の記録。9月の東京開催も2番目に多い参加者を集め、シンポジウムに寄せられる期待が再び高まりつつあることを感じさせた |
| 定員分の席では不足になるほど人が集まった発表「多言語翻訳がやってきた」 |
満席のパネルディスカッション、発表
初日の特別セッションはやや低迷したものの、二日目は各パネルディスカッションや発表にたくさんの参加者が集まった。とくに、発表の「多言語翻訳がやってきた」(発表者:畝本あい子さん、島津製作所)や「ビジュアル化でわかりやすさを大幅に向上させた欧州テレビ取説」(発表者:井上彰さん、日本ビクター)などでは、用意されていたいすだけではまにあわず、急遽スタッフが予備のいすを部屋に運び込むなど、参加者の関心の高さが示された。
内容を改めたパネルディスカッションも
 |
| 展示コーナーも人気 |
大阪で行われたパネルディスカッションは、すべて東京開催でも行われたもの。その中、「マニュアルのデザイン・レイアウトを見直す」では、東京開催での参加者の声を反映してその内容の一部にさらに磨きをかけるなど、運営側の対応のよさも見られた。パネルディスカッション「進化するテクニカルライティング」では、時間の半分を、当日参加者がシートに記入したコメントや質問をベースにしたディスカッションに費やすという試みが。そのため、こちらも当然東京開催と大阪開催では内容が異なっていた。パネリストの、三者三様、当意即妙の対応に、参加者も満足なようすだった。
「脱皮」というキーワードの効果
今年のシンポジウムの共通テーマは「脱皮」。誰が何から脱皮する、ということではなく、テクニカルコミュニケーションそのものが脱皮する、脱皮しなければならない、テクニカルコミュニケーションを脱皮させよう、という意識が東京でも大阪でも強く働いていた。
危機感と反省と
「テクニカルコミュニケーションの脱皮」を標榜したシンポジウムであるが、そもそもなぜ「脱皮」なのか。それは、テクニカルコミュニケーターがいやでも抱かざるを得なくなりつつある危機感と反省の意識だ。われわれは、薄々、あるいはかなりはっきりと、「消費者は説明書にあまり期待していない」ことに気が付いている。その一方で、デジタル家電やネット家電といった新ジャンルの商品に対しては従来の手順中心型の操作説明ではもはや力が及ばなくなっている。しかも、こういった商品は消費者が家電量販店で購入し、据付や最初の設定も自分で行うということが常態である。商品を売る量販店の側も、競争力が似たり寄ったりの商品群であれば、どうせなら客からの問い合わせが少ない、つまり説明書がよくできている商品の販売に力を入れるという現実もある。
東京、大阪開催を通じて、これらの現実を踏まえた上での議論が多出したことが今年のシンポジウムを特徴付けたといってよい。
大阪シンポジウムの交流会は健在
 |
| 昼のディスカッションの熱気がそのまま継続した交流会 |
シンポジウムの熱気さめやらぬままに、同じ天満研修センター内で交流会が開催された。シンポジウムでパネリストを務めた方や発表を行った方と、そのパネルや発表に参加した方とが、飲み物片手になごやかな雰囲気の中で意見交換、情報交換できる場であることが交流会の第一の意義。今年は、この交流会におよそ50名が集まった。シンポジウム大阪開催の面目躍如といったところだ。場所を変えての二次会にも、約30名が集い、話は果てしなく続き、シンポジウム大阪開催の二日が過ぎていった。
(取材・構成:小谷 洋一)
森口先生の連載コラム
てぃー・しー 今昔(四)
 |
 |
プロフィール
北海道大学文学部卒業。米国南部工科大学テクニカルコミュニケーション修士課程修了。高校英語教諭、英文雑誌記者、機械翻訳アドバイザー、メーカーの社内テクニカルライター、フリーランス翻訳者等を経て、現在、広島国際大学助教授。専門はテクニカルコミュニケーションと辞書学。業績として、『ウィズダム英和辞典』(共著)、『日本語を書くトレーニング』(共著)、『電子辞書活用ハンドブック2005』(共著)などがある。 |
古代の医療とTC
我々が生身の人間であることを考えると、建築、軍事、交通、コンピューターなどといった技術よりも、医療が最も身近であり、古くから存在していたであろうことは想像に難くない。今回は、その医療技術に関わるTCの歴史を、古代にまで遡って探ってみる。
まず、次の手順を見てもらいたい。
傷の治しかた
- 河口に行きます。
- 真水で身体を洗います。
- 蒲の花を取って、地面に敷きます。
- 敷きつめた蒲の花の上で身体を転がします。
既にお分かりのかたもあるかもしれないが、因幡の白兎が鮫を騙したために毛皮を毟られてしまったとき、通りがかった大国主命が兎に教えた治療法である。因幡の白兎の話は、712年に書かれた日本最古の歴史書である古事記に記載されている。因幡の白兎の話自体がフィクションであることは明らかだし、この治療法の是非についての議論もあるようだが、医療に関連するTC的記述が、8世紀に遡ることが出来る一例と考えてよいだろう。
だが、因幡の白兎の話は、医学と言うレベルには程遠く、民間医療の枠を出ていない。日本の科学技術の多くは海外からの輸入であり、医学もその例外ではない。6世紀には既に中国から医学書が輸入されているし、753年に唐から来日した鑑真和上は、日本の仏教に大きな功績を残しただけでなく、医薬の知識も深く、匂いや味で薬を鑑別することができたと言う。 *
平安時代になると、日本人自身の手による医学書が出始める。その中で現存する最古の例に、918年に深根輔仁が執筆した『本草和名』(ほんぞうわみょう)と、984年に丹波康頼が編纂した『医心方』(いしんほう)がある。
『本草和名』は、1025種の漢方薬の材料を9種類に分類し、その漢名と和名を対応させた辞典である。辞典の作成が果たしてTCに入るかどうかは議論の分かれるところかもしれないが、TCシンポなどでも翻訳が話題になることを考えると、専門用語の訳語集である『本草和名』もTCの範疇に含めて差し支えないだろう。
その『本草和名』の内容だが、漢方薬の材料名が見出し語として挙げられ、現代の辞典類と同様、本文はその見出し語よりも一字分低くインデントされている。この時代の文書としては当然だが、文字はすべて漢字であり、返り点やカタカナなどの訓点はなく、また、句読点も打っていない。見出し語に複数の中国語名がある場合は、「一名○○」というように別名が書かれ、その名前が出ている中国の医学書が小さな文字で書かれている。現在ならば、学術文献などで用いられる出典を、脚注として示すのと同じ感覚だろう。また、この注の部分に名前の由来が書かれている場合もある。そして、見出し項目の最後に、日本語での名前が、漢字を当て字として使った万葉仮名で書かれている。ただし、その薬がどのような効能を持っているかについての言及はない。
一例として、「くらげ」の項の記述を挙げておく。(恥ずかしながら、くらげが漢方薬の材料になるというのは、知らなかったが…。)
海月貌似月在海中故以名之 ・・・ 一名水母 ・・・ 和名久良介
現代語訳:海月、海の中にあり、月に似ているためこの名がつく。・・・ 別名、水母 ・・・ 日本名、くらげ。
*
次に、『医心方』である。この書物は、『本草和名』と異なり、治療法を書いた医学書であるが、丹波康頼による執筆というよりは、隋唐の医学書百数十篇から重要部分を選んで編集したものである。現代ならば、もちろん著作権に抵触するものだが、この時代にはそういう意識すらなかったと思われる。その内容は、総論、鍼灸、内科、外科、産婦人科、小児科、精神科、泌尿器科、肛門科、食餌療法など医学全般にわたり、分量的にも全30巻という膨大なものになっている。
残念ながら手元には薬の副作用に対する治療法を解説した第20巻しかないが、他の巻でも恐らく同様の構成だろう。第20巻は、症状ごとに43章に分かれていて、各章の始めに大まかな症状の紹介があり、その後、細かな症状ごとに用いるべき薬とその服用法が記載されている。パソコンのトラブルシューティング用のマニュアルと似た構成と考えればよいだろう。レイアウトはところどころに段落のようなものが見られるが、『本草和名』に比べて工夫されている感じはしない。ただ、『本草和名』と異なり、訓点が加えられている点は、現代の我々だけでなく、当時の人々にとっても読みやすかったのではないかと思われる。(余談だが、この『医心方』は槇佐和子という方が30年かけて独力で現代語訳をされているそうであり、私が参考にしたのもその1冊である。)
*
今回まで、日本歴史におけるTCと言えそうな例を探ってきた。本来ならもっと時間をかけて各史料を分析すべきところだが、その能力も時間もないために、上っ面の紹介になったかもしれない。それでも、TCの歴史を垣間見ることには何らかの意義があるはずである。次回は、その意義を考えて、この連載を締めくくりたい。

シリーズ TC 最・前・線
株式会社テックコミュニケーションズ
会社プロフィール
大日本スクリーン製造株式会社の子会社として1993年創立。商品の開発段階から参画し、関連するドキュメントの企画、制作、印刷のすべての工程をカバーしている。豊富な経験と幅広い知識に支えられたエキスパートが、「作る心と使う心をつなぎ続けたい」をコンセプトに「コミュニケーション・コンテンツのトータル・クリエーター」を目指している。
シリーズTC最前線の第5回は、京都において、ユーザーの視点に立ったドキュメント制作で定評のある株式会社テックコミュニケーションズを訪問。ドキュメント制作全般を管理されている森本裕取締役とカスタマーサービス部の村田珠美マネージャーにお話をうかがいました。
 |
 |
 |
当社では、ドキュメント作成の基本を習得するというねらいもあり、職種に関係なく協会が主催する技術検定試験の受験を奨励しています。テクニカルライティングだけではなく、ビジネスコミュニケーション全般にかかわる検定試験も設けていただけるとありがたいですね、と森本さん |
 |
まずは、貴社のマニュアル制作についてご説明ください
当社は、大日本スクリーン製造グループのドキュメント制作専門会社として93年に設立されました。大日本スクリーングループが取り扱っている製品のマニュアルが主体ですが、外販にも力を入れ、現在では約25%が他社からの仕事です。マニュアル制作要員は総数約90名、うち社員50名、その他派遣や委託の方が40名です。本社の他、滋賀にある大日本スクリーンの工場内に分室を置き、現場でも制作しています。また、東京に営業所を開設し、関東方面のお客様への対応を強化しています。
当社が制作しているマニュアルは、時計や家電など一般ユーザー向けの製品もありますが、主体は半導体製造装置や液晶製造装置など特定ユーザー向けのもので、小ロットでページ数が非常に多いのが特徴です。データの流用率が高いので、データベースを構築し一元管理を行っています。具体的には、制作の効率化を図るためXML化を推進し、効率化を実現しました。
 |
 |
 |
現在はマネージメント業務が主体ですが、TCという言葉が一般的でなかったころからドキュメント制作に携わっています。協会のマニュアルコンテストで、05年度はシートマニュアル部門の「部門優良賞」を受賞でき、大変はげみになっています、と村田さん |
 |
XMLの導入についてもう少しご説明ください
SGMLの研究をはじめてから、XMLによるワークフローの構築まで約7年かかりましたが、この1年で本格稼動に入ったところです。データ流用率の高いマニュアル制作の納期短縮、多言語展開時の効率化が導入のきっかけですが、コスト低減への強い要請も大きな要因でした。ライターが、XMLのタグを意識せずに、ブラウザを使ってテキストを入力していけば、スタイルシートに基づいて自動的にマニュアルの体裁に変換できるようになっています。XMLの知識や技術は特に必要ありません。さらに、社内だけでなく外部のお客様にもこのワークフローをXML自動組版ASPサービス『自在空間(r)』としてご提供しています。自社でXMLを導入するにはコストがかかりすぎる、方法がわからないといったお客様に、インターネットを介してこのシステムを利用していただくというものです。多言語展開時の差分抽出、校正や自動組版のスピードアップが図れるなどのメリットがあります。
扱っている製品の特性上、ライターには高度の知識が必要でしょうね
そのとおりです。優秀な製品知識を持つライターの確保は大変厳しいのが実情です。高度な製品知識を習得するために、お客様側の開発技術者とライターとのペアでの制作をすすめています。
貴社における課題は
幅広い分野の能力を身につけた人材の育成が課題です。今後、ドキュメント制作の現場では、自動化や機械化による作業の効率化・合理化が加速していきます。一方、マニュアルの形態や役割は、今後大きく変化していきます。マニュアルとカタログを1つのチームで同時に制作していくということも考えられます。したがって、制作スタッフは、よりクリエイティビティの高い業務に集中することが求められると考えています。「クリエイティビティ」には、デザイン面だけでなく、ビジネス面での要素も不可欠です。より見やすく、読みやすくするための工夫はもちろんのこと、データベースやWEBなどの技術や知識を駆使して、「ドキュメントのあり方」を積極的に提案していく能力も必要でしょう。このような能力を持つ人材をどのように育成していくかということが最大の課題です。
最後に協会への期待は
メーカー、つまり制作発注元と制作ベンダーとの交流の場、率直に言えばビジネスの場や機会を、協会としてより積極的に用意していただきたいですね。
(取材・構成:三堀 邦夫)

私のコミュニケーション考
せたがや文化財団
市川美知
 |
 |
ソニー(株)で長年にわたり製品マニュアルの企画制作に携わった後、退職。現在はせたがや文化財団文化生活情報センター生活工房の室長として財団の様々な事業を企画実施するとともに、東京電機大学、産能大学、立正短期大学などで講師をつとめる。TC協会においてはソニー在職中は理事として協会の運営に携わり、現在はTC育成・普及専門委員として若手テクニカルコミュニケーターの育成に活躍。 |
多くの人は、少しでも話しべただったり、文章を書くのが苦手だったりすると、自分にはコミュニケーション能力がないと思ってしまう。決してそんなことはない。ゴチャゴチャと考えていることを整理する、そして取り敢えず伝える相手を仮定してストーリーを作ってみる。するとそこに、立派に通用するデザインされた(編集された)情報ができあがってくる。
企業でマニュアルを制作していた時
Iアナログ全盛だった頃も、デジタル、ネットワーク通信がすっかり日常的になった現在でも、マニュアルに接するユーザーの要求は「わかりやすいこと」「使いやすいこと」に集約できる。
誰か、その製品についてよく知っている人が「人間マニュアル」として説明してくれる内容があなたにとってわかりやすいのは、その説明が「あなた」のためだからだ。あなたの知りたいことをたちどころに理解した上で、的を絞って説明してくれるからだ。1000人のユーザーに同じ説明を届けるのだから、1000人全員にとって分かりやすい−なんてことはあり得ないと、時々思ったこともある。
「メディアと企業」という講義
秋から某大学で始めたこの講義の目的は3つある。1つは、企業にとって自社の商品情報や技術情報をユーザーに発信することが、企業行為として重要であることを知ること。2つ目は、企業とユーザーのコミュニケーションのありかたを学ぶこと。3つ目は情報発信のスキルであるライティングやデザインを学ぶことである。毎回、冒頭でこれらの目的を繰り返してから講義に入る。今日の講義の内容が3つの目的のどれに相当するかを確認するためである。
具体的な内容は、大体次のようなものである。商品情報は商品性の一部を成すものであり、商品情報の必要性は市場の要求でもある、ということ。そして企業がユーザーとつながり続けるためのコミュニケーションのありかたを考える。法規や企業の情報発信、社会的課題についても言及する。予想以上の数の学生が集まっているが、これはなぜか。学生たちは企業を概念的には知っているが、実際はせいぜい親や大学の先生、社会に出た仲間や先輩を通してしか企業を知らない。ましてや企業がどのような考え方でどのようにして商品情報、技術情報をマニュアルやカタログにしていくかなど、知らないことでいっぱいなのだ。ここにこそ、企業経験がある私の付加価値が生かせるというわけだ。
毎回、前回の講義の後で書いてもらった質問に答えることをやっているが、ここに注目すべきコミュニケーションが生まれる。一人の学生の個人的な疑問に私が皆の前で答えることにより、多くの学生に情報が共有され、この時にコミュニケーションの動線が双方向のみならず多方向に活発に動く。
コミュニケーションとは文化を伝播すること
ところで今、私はせたがや文化財団生活工房というところで、暮らしをテーマにした事業企画もしている。使いやすくデザインされたモノ、住みやすくデザインされた建物や部屋、環境を考えてデザインされた公園、世界のあまり知られていない地域の生活。私たちの感性を豊かにする文化を生活に取り込むサポートをするような企画を実施し、来場者に日常と非日常の橋渡しをして、驚きや発見、満足、感動を味わってもらう。
では、どうやって? 例えば「シルクロード絨毯展」という企画では、美術館並みの絨毯を展示すると同時に、300年前の絨毯を床に敷いて裸足で歩いてもらう、遠くトルメニクスタン地方の食事を作って食する、博物館の教授にセミナーをしてもらう、などである。こうした参加型の企画では、専門家や作者等を囲んだコミュニケーションの輪が広がっていき、参加がどんどん能動的になっていく。人との交流を通じて知恵がつながっていくこともコミュニケーションである。
*
大学の講義と文化財団の仕事は、マニュアル制作とは一見まったく異なる世界のようだが、新しいこと、何か漠然としていてわからないことに人を引き込む技術は、一種テクニカルコミュニケーションであると言える。いずれの場合も、オーディエンスの分析と相手が欲する情報を発信することの重要性を実感する毎日である。

TC-INFORMATION
会員企業ひとことメッセージ
■キヤノンシステムソリューションズ株式会社
●会社概要
1982年設立。金融や製造などの各業種向けのシステムインテグレーション事業や情報セキュリティ及びネットワーク事業、自社開発商品をコアとしたソリューションやコンサルティング事業を推進しています。
ドキュメントシステム部では、以下のような商品を提供しています。
- 充実した日本語組版機能に加えて、UNICODE多言語処理にも対応可能なDTPパッケージ「EDICOLOR」
- 伝統的な日本語組機能とバッチ処理による自動編集を両立した編集制作システムの「EdianWing」
- 新聞制作の高度なニーズに対応した「EdianWingNPS」
さらに、これらを組版エンジンとした高付加価値、高生産性を実現する出版・印刷ソリューションの提供を、新たな事業の柱とすべく推進しています。
上記製品の他に、電子出版オーサリングツールや日本語検索エンジンなども販売しております。
●協会にひとこと
多言語対応のマニュアル制作に関するセミナーや、会報での特集などを希望します。
■ライオンブリッジジャパン株式会社
●会社概要
ライオンブリッジは、2005年9月、ローカリゼーション業界最大手のバウングローバルソリューションズを買収、世界25カ国に拠点を持ち、従業員数4,000名を数える業界屈指のリーディングプロバイダーへと躍進しました。当社は、アプリケーション/コンテンツ開発からコンサルティング、グローバリゼーション、テスティング、保守にいたるまで、幅広い業務で製品およびコンテンツのライフサイクルを通じたグローバル化をお手伝いします。
"Many Traditions - One Future" - このたびの合併において掲げられたテーマが指し示す通り、ライオンブリッジとバウングローバルソリューションズが積み重ねた、IT、電気、通信、医療、航空産業、自動車、ファイナンス、エンターテインメント、食品、化学などの様々な分野での実績をベースに、新生ライオンブリッジとして更に進化したサービスをお届けしています。
●マニュアルについて
多言語化を意識せずに作成されたソースコンテンツ、ソースドキュメントが及ぼす「コスト」「スケジュール」「品質」に対する弊害を一番熟知しているのがグローバリゼーションプロバイダーであると自負しています。多言語展開をお考えの企業に対して、英文作成のコンサルティングからお手伝いできればと考えています。
●協会にひとこと
TCシンポジウムの参加などを通して、みなさまの声を速やかに業務に反映していきたいと思っております。また新たなローカライズ手法やサービスなども、どんどん紹介させていただきたいと考えています。

技術検定関連
2005年度 TC技術検定のお知らせ
受験の申し込みは締め切りました。受験を申し込んだ人には、1月中旬までに受験票が届く予定です。
- 試験実施日 2006年2月12日(日) 午後1時15分受付開始
- 実施会場 東京・大阪・他
- 実施等級 テクニカルライティング試験(初級・上級)、マニュアル制作ディレクション試験
- 合格発表 2006年3月下旬を予定
受験のための手引き
- 受験対策テキスト(すべて消費税、送料込み)
「テクニカルライティング分野編」\3,990
「マニュアル制作ディレクション分野編」\4,410
- 受験対策勉強会(全等級同時開催)
2006年1月12日(木) 13:15〜16:45 渋谷 子どもの城
2006年1月14日(土) 13:00〜16:30 大阪 天満研修センター
TC技術検定についてのお問い合わせ先
今後の受験に関する情報は、随時ホームページにてお知らせします。

研究会からのお知らせ
テクニカルライターの会
2006年2月に大阪で、テクニカルライターフォーラム2006が開催されます。「誰にでもわかりやすい説明を考える」をテーマに3件の講演と討議を企画しています。
- 日時:平成18年2月22日(水)13:00〜18:00
- 場所:社団法人中央電気倶楽部(大阪市北区堂島)
- 講演(1) 「頭脳スポーツを通じたコミュニケーション文化の創生」
講師:日本頭脳スポーツ協会理事長 前野茂雄氏
- 講演(2) 「教師が子供達に期待するマニュアル活用能力」
講師:大阪教育大学音楽教育講座 助教授 田中龍三氏
- 講演(3) 「『作って楽しむ! ジャストホーム3 銘品工房〜虎の巻〜』制作事例」
講師:株式会社ジャストシステム 近藤和恵氏
- 問合せ先:財団法人関西情報・産業活性化センター
http://www.kiis.or.jp/trn/tw/forum05.htm

TC協会ニュース 第70号 2005年12月21日発行
*次号は2006年3月25日発行の予定です。
*会員連絡先が変更になった場合は、TC協会事務局(こちら)までご連絡ください。

|