TC協会ニュースWeb版 第61号
協会、今年はこう動く
去る3月3日、2004年度のTC協会総会が開かれ、本年度の協会運営方針が明らかになりました。そこで、協会の各事業・活動単位の運営をリードする専門委員長および運営委員長の高橋さんに、いままでの活動で見えてきた課題や今後の方策、会員のみなさまに対するアピール事項などを語っていただきます。
運営委員会を代表して、運営委員長より
運営委員長:高橋 正明
2004年度の事業方針では、2005年度中の「法人化」に結論を出すよう時間的期限を設けました。したがって、中期目標を達成するためより一層の足固めを実行する重要な年度になります。具体的には「説明技術の確立」および「他業種への浸透・視野の拡大」を目標に、次のような新しい事業サービスに着手します。
■「評価技術」の拡充
マニュアルコンテストは、従来の評価技術の集大成として広く一般にも趣旨を訴え、公正な評価技術を保ちながら、運営が安定してきました。当初の目標をクリアしたといえます。社会環境の変化に適応したマニュアル評価基準を充実させ、広報手段を向上することで、「他業種への浸透」や「更なる会員拡大」に直接影響力のある絶好の事業になり得ます。さらに、今年度から従来の評価技術を応用して新しく「マニュアル評価サービス」事業を開始します。コンテストとは異なり、個々に申し込まれた各社のマニュアル評価をTC協会が有料で請け負うのです。評価基準はあくまでもマニュアルコンテストで培われた評価技術です。
■「技術セミナー」の拡充
これまで「セミナー」関連事業として、シンポジウム特別セミナー、TC技術検定セミナー、そして技術セミナーを運営してきました。今後TC協会が法人化して活動を継続するためには、各種事業での収益や法人としての税務など多くの観点から収益事業の見直しを行う必要があります。そのために、セミナー体系、実施方法の見直しが必要になるでしょう。また、様々に変化する世の中のトレンドに合わせた新しい情報提供を心がけることもTC協会の使命だと思います。
■調査研究活動の拡充
研究開発部門の活性化も今年の課題です。従来「受託事業」として始まり、補助金を申請しながら10年以上にわたり継続してきました。これらの成果の蓄積もあるため、TC協会から世の中に対して「提言」を行う時期でもあると認識しています。2004年度は従来の調査研究活動の一環として、「ユーザビリティ資格認定調査」を行い、これに加えて、新たに「カタカナ表記に関する調査」および「電子マニュアルアイコンの標準化」活動を行います。加えて関連団体などに対する成果の「普及」「提言」活動を行います。
■他業種への浸透・視野の拡大
今年のTC技術検定試験から、「テクニカルライティング初級/上級」および「マニュアル制作ディレクション」と枠組みを刷新しました。これらの実施運営の安定化を図る一方で、ビジネスコミュニケーション(BC)分野における技術の掘り下げを行い、BC検定への準備活動を開始します。TC技術検定とは違った軸の収益事業として、これらの普及を機会に他業種への浸透を図り、会員拡大および基盤強化へとつなぎたいと考えています。

TCシンポジウム
TCシンポジウム専門委員長 黒田 聡
16回目となるTCシンポジウム。今年のテーマは、「使うために作る、作るために創る〜凝縮と選択の知恵」です。いかに多くの情報を凝縮し、優先すべき情報を選択するのか、私たちが日々直面しているテーマを正面から取り上げます。
■ただいま企画中
制作現場で提起されている様々な課題を掘り下げるプログラムを企画中です。
今年の実行委員会では、ローカライズ、紙マニュアルの 再定義、電子マニュアル、パッケージマニュアルの作り 方などが話題になるとともに、「若手への技能継承」というテーマが今年も引き続き検討されています。
基調講演は、プロダクトデザイナーの深澤直人氏にモノ づくりの観点から講演いただきます。
詳細は6月頃に「プログラムガイド」としてご案内します。
■リニューアル 今年からTCシンポジウムの企画形式をリニューアルします。
分科会は「パネルディスカッション」と改称して、企画趣旨をより分かりやすくしました。また、特別セミナーは「特別セッション」に改め、人材育成や実践的知識習得ニーズに幅広く対応できるように強化します。参加者の経験に応じて受講しやすいように初心者向け内容を分離するなど、参加者からの声を反映する試みも検討中です。さらに、消極的提供にとどめていた特定商品の紹介の場を、「TC関連の情報がまとめて収集できる」という
付加価値を強化して、公式に提供することにしました。これに合わせて、事例研究発表は学校や企業など、組織の枠を超えた研究や取り組みの発表の場として、原点に回帰すると考えています。
■公表の場としての機能を強化
TC協会では、研究開発事業として特定テーマの研究を推進しています。また、業界団体としてPDF/Xなどの新しい規格の検証を担っています。これらの成果を、事例研究発表や特別セッションとして公表するのもTCシンポジウムの役割です。この方面での機能も強化します。
■最新動向を凝集する「プログラムガイド」企画中
6月に発行するTCシンポジウムのプログラムガイドは、総発行部数が6000部を超えるTC協会最大の告知メディアでもあります。TCシンポジウムへの参加の有無に関わらず、TC関係者の最新動向を知る手段としても幅広く活用いただけるよう、内容を充実させる予定です。

マニュアルコンテスト/マニュアル評価専門委員会
日本マニュアルコンテスト/マニュアル評価 専門委員長:徳田 直樹
昨年までマニュアルコンテスト専門委員会として活動してきましたが、今年から「日本マニュアルコンテスト/マニュアル評価専門委員会」と呼称を改めます。マニュアルコンテスト実行委員会が年度ごとに組織される単年度の組織であるのに対し、この専門委員会は委員の任期を定めない継続的な組織です。専門委員会はマニュアルコンテストのノウハウを継承し、時代に合わせてマニュアル評価ガイドラインの改訂や新しい事業の立ち上げなどを行います。
■昨年度の活動
日本マニュアルコンテストでは昨年度応募の間口を広げるためにシートマニュアルをトライアル審査部門として募集しました。しかし、応募されたシートマニュアルを見ると大まかに2つのジャンルに分かれることが判明しました。さらに、既存の部門にもシートマニュアルとみなせるものの応募が数点ありました。これは、シートマニュアルの定義があいまいだったため応募者がどちらへ応募するか迷ったこと、さらに、トライアルであるためにマニュアルオブザイヤーの対象とはならなかったことが理由と考えられます。
■今年度の活動
昨年度のトライアルの結果をふまえ、シートマニュアル部門をシートマニュアル/パッケージマニュアル第1部門およびシートマニュアル/パッケージマニュアル第2部門の2つに分け、正式に募集部門に追加します。シートマニュアル/パッケージマニュアルの定義を新たに定めました。
シートマニュアル/パッケージマニュアルとは下記の条件をすべて満たすものです。
- 1枚もので綴じが無く、冊子の構成でないマニュアル(折りたたみ式は可)、または製品包装パッケージに印刷されたマニュアル。
- 紙およびその他の媒体に印刷された日本語のマニュアル。
この部門は限られたスペースに必要十分な情報をわかりやすく配置してあるかどうかなどデザイン面にウェイトをおいて評価します。会員の皆様からの多数のご応募をお待ちしています。
マニュアルコンテスト/マニュアル評価専門委員会では今年から新たにマニュアル評価事業をスタートさせます。マニュアルコンテストと一線を画すために実機を使ったマニュアル評価を行います。評価はメーカーに属さない専門委員が行います。対象製品が移動できないような大きいものの場合には出張して評価することも考えています。また、重点評価項目に対するリクエストにもできる限り応じる予定です。評価費用は、1件あたり20〜30万円で、出張する場合には交通費などを実費でいただくことになります。マニュアル評価事業に関する詳細は別途ご案内する予定です。

TC技術検定
TC技術検定実行委員長:高橋 尚子
「技術検定専門委員会」は、従来からのTC技術検定試験を実施してきた「TC技術検定専門委員会」を「TC技術検定実行委員会」と名称変更し、新たに「BC技術検定(仮称)実行委員会」を加えスタートします。
専門委員会としては、技術検定が永続的な事業となるよう、また受験者への付加価値や情報開示などに関して検討をします。これまで、TC技術検定を実施するだけで余力がなかった専門委員会が、次の段階に進みます。
「TC技術検定実行委員会」では、まず2004年2月22日に実施した「2003年度TC技術検定試験」の採点から合否の発表までの業務をもって一区切りします。そして、2004年度TC技術検定試験の実施に向けて、新しい委員を迎え準備を開始します。
この実行委員会では、これまで全員で問題作成、ガイドブック、セミナーを担当するといった固まりから、それぞれの担当委員に分かれ、得意な所で協力頂く形になります。また、本紙では、検定に関してのお知らせだけではなく、試験内容や学習方法などのさまざまな情報をお伝えしていきます。

問題作成担当委員は、これまでどおり問題作成・精査・採点を行います。問題作成を担当した人には大きな人材・能力評価の力が残りますが、それまではたいへんなパワーが必要です。そこで、問題作成に興味がある、能力評価の方法を勉強したいといった方々にも協力いただけるよう方策を検討し、実施していきます。
ガイドブック担当委員は、協会から発行しているガイドブックの増刷や改訂時に協力いただきます。
セミナー担当委員は、例年、TC技術検定の前に開催している「TC検定セミナー」の内容を見直し、より受験対策に徹したセミナーを実施できるようにします。
「BC技術検定(仮称)実行委員会」は、2005年度中の実施を目標に、新たに調査研究を開始します。

セミナー
セミナー専門委員長:川瀬 岩夫
セミナー専門委員会では毎年定期的に下記の活動を行ってきました。
- 「マニュアル制作実務セミナー」の実施(6月頃)
- シンポジウム併設「特別セミナー」の実施
- 「TC検定セミナー」の実施(12〜1月)
- その時々のホットなテーマなどを取り上げた「TC技術セミナー」の実施(随時)
「マニュアル制作実務セミナー」は、企画、ライティング、レイアウト&デザインの分野を3人の講師で担当しています。毎年60人あまりの受講者を集める人気セミナーで、社員教育の一環として年間計画に組み入れている会社もあるようです。
■ 今後の課題としては、
- マニュアル制作実務セミナーをブラッシュアップし、ディレクション分野をカバーする
- 性格のややあいまいになっているTC検定受検セミナーを、より実戦的な内容・構成にする
- 会員企業から要望のある人材育成の見地から、セミナー事業全体を見直す
- そして、長らくメンバーの固定化してしまっているセミナー委員会に新たな人材を迎え入れ、フレッシュな発想で新鮮なセミナー・テーマを発掘していく
といったことがあげられます。
■こうした課題を受け、今年は以下のような活動を計画しています。
- 「マニュアル制作実務セミナー」にディレクション分野を新設する。
- 検定専門委員会との連携のもとに、検定セミナーを模擬試験中心の受験セミナーにリニューアルする。
- マニュアル制作にかかわる人材育成のためのセミナーとして、あらたに「テクニカルコミュニケーター育成セミナー」を新設する。
- セミナー委員会にあらたなメンバーを迎えて体制を強化する。
これらに加えて、今年はTCシンポジウムのリニューアルに合わせ、従来の併設セミナーをシンポジウムの「特別セッション」として位置づけ、内容も拡大増強する予定です。
セミナー委員の仕事は、テーマの選定からそれに基づいての講師との調整など、委員一人ひとりの意見や発想を活かせる仕事です。また、メンバー個々が担当した仕事に責任を持って取り組む、自主性の高い活動をしており、定期的に拘束される時間も比較的少ない委員会だといえます。幅広い人材の参加を求めていますので、興味のある方は是非ご連絡ください。お待ちしています。

2005年度法人化を目標に 〜2004年度総会レポート〜
2004年度のTC協会総会が、3月3日(水)、テラハウスICA(東京工科専門学校−東京都中野区)で開催されました。
あいさつ
総会は、TC協会の海保博之会長と、来賓の経済産業省文化情報関連産業課(通称メディアコンテンツ課)杉浦健太郎氏のあいさつで始まりました。
■会長あいさつ
協会の事業は、みなさまのご支援と運営スタッフの努力のおかげで堅調に推移しています。今後ともよろしくお願いいたします。
■来賓あいさつ
いま、いわゆるコンテンツ産業を、関係省庁あるいは大学も含めてみなで応援していこうという動きがあります。マニュアルやウェブページそのものもコンテンツですから、TC協会の活動を私どもで支援していこうと考えております。

報告と審議
総会の議長に選出された雨宮拓氏(運営委員)から、本日の出席者35名、委任状提出者127名で合計議決権数162名となり、会員数401名の5分の1を満たしており、総会が成立するとの報告があり、議事に進みました。
■2003年度の事業報告(高橋正明運営委員長より)
●2003年度の活動目標
2003年度は、「イノベーションを迎えるための足固めを!」を事業方針にがんばってきました。「TCとは」、という簡単に答えるのが難しい、普遍的なコミュニケーション技術がある一方で、技術の革新、IT化の進展という新しい状況に対応すべく、1)説明技術の確立、2)他業種への浸透、を目標に掲げました。説明技術を確立することは、まさにわれわれの存在意義の根幹に関わるテーマです。具体的には、「電子マニュアルを含めたマニュアル制作技術の掘り下げ」「マニュアルコンテストの募集キャンペーン」「実用セミナーキャンペーン」の実施を計画しました。結果としては、これがTC技術だ、と言えるような体系化まではできなかったというのが正直なところです。これからも、周辺技術を含めて情報収集を継続し、体系化にむけての努力を続けたいと考えています。他業種への浸透を図るのには、会員を増やすということに止まらず、TC技術に厚みを持たせたいという願いも込められています。そのための有効な手段として、マニュアルコンテストの充実を意図してきましたが、まだ参加数が少ないのが現状です。
●技術検定について
TC技術検定ですが、2003年度はその枠組みを大きく変更しました。ライティング試験に加えて、マニュアル制作ディレクションという枠を設けたのです。ライティングに関しては、まず3級を立ち上げ、続いて2級を実施してきましたが、その上の1級を設定することは実際的ではないと判断し、初級、上級という枠に変更しました。これにより、実際に業務に携わる方々を実情に即してカバーできるようになったと考えています。試験の受験者数を見てみると2003年度の受験者総数は前年に比べて増加したものの、上級(旧2級)の受験者数が減少しました。この原因はこれから調査しますが、総数が伸びた点は評価したいと思います。今後の課題として、検定専門委員の負担増大、受験者数の伸びに対する懸念が挙げられます。
●会員になることのメリット
以前から、会員メリットというものを要求されています。そこで、会員と非会員の参加費や受験料に格差をつけることで、会員メリットを明確にしました。協会活動に非会員からの参加が増えているという事実があるにも関わらず、総数が増えないという現状がありますので、会員メリットをアピールしてこの問題を解決していきたいと思います。
●協会の開催するセミナー
技術セミナーでは、講師の育成が課題として浮かび上がりました。技術検定セミナーでは、もう少し試験の内容に踏み込んでほしいという要求をいただいています。
●シンポジウム
毎年1000人前後の参加者を集めるシンポジウムですが、各年新しい参加者を迎えているということは、確実な需要がある証だと思われます。堅実な事業となっていますので、今後は何らかの革新が必要でしょう。運営面では、受付、案内といったオペレーション部分の外部委託化を進めてきました。大阪開催シンポジウムも、関西会員の熱意により継続しています。

■2003年度の決算報告(三堀邦夫事務局長より)
2003年度は、収入が約5,900万円、支出が約6,400万円と、約500万円、協会設立以来はじめての赤字計上となりました。昨年承認いただきました2003年度予算案でも赤字予算として計上していましたが、その額を30万円ほどオーバーした、という結果です。赤字決算の背景ですが、技術検定にディレクション試験を増設するための投資が生じたこと、事務局の強化を図ったこと、および雑損失として会費未回収が例年より多く発生したことが挙げられます。ただし、協会の資産として、現金および預金が8,000万円ほどありますので、財務状態が悪いわけではありません。なお、2003年度からは事業単位ごとの収支を明確にして、財務の体質を改善することにしました。
*以上の、2003年度事業報告および決算報告は、会場の拍手をもって承認されました。

■2004年度事業計画(高橋正明運営委員長より)
2004年度は、「2005年度中の法人化に向かって、よりいっそうの足固めを!」という事業方針のもとに活動します。法人化を正式に目標としたのは今年度が始めてです。この5、6年にわたり、法人化に向けての検討、努力はしてきましたが、諸般の事情により実現はされませんでした。しかし、平成17年度には法人に関する新しい法制度も整うとのことです。協会の法人格として、社団法人ではなくNPOという選択肢もあります。これらを踏まえて、この2年以内に結論を出そうと考えています。現実は法人化の是非論を越えており、実際に行っている事業の数と規模、予算規模を見ると、任意団体でできる範囲は越えていると思われます。きちんと法人化して対処すべき段階にきているということです。具体的には、「説明技術の確立」と「他業種への浸透」を昨年度に引き続いて目標として掲げます。
●説明技術の確立
新しい試みとして、マニュアルコンテストで培われたマニュアル評価技術をベースに、マニュアル評価サービスを始める予定です。コンテストとは別に、実機を操作した上でのマニュアル評価、ポイントを指定していただいた上でのマニュアル評価を、有料で行います。
●セミナーの拡充
いままで以上に、教育的な視点を強化したセミナーの開催を検討しています。
●調査研究活動の拡充
ここ数年継続しているユーザビリティに関する調査研究に加え、「カタカナ表記」に関する研究・提言活動と、「電子マニュアルアイコン」の標準化の活動を行います。
●他業種への浸透
新しい枠組みのもとでのTC技術検定試験を安定化させるとともに、ビジネスコミュニケーション分野に着目し、最終的には検定試験の立ち上げをめざして活動を進めていきます。同時に協会活動の裾野を広げようという考えです。

■2004年度の予算(三堀邦夫事務局長より)
2004年度予算案では、支出が約6,300万円という数値になり、これを下回ることはないと思われます。しかし、2年連続で赤字決算をすることは絶対に回避したいので、各事業単位の専門委員長に、それぞれ厳しくかつ積極的な予算を組んでいただいています。その結果、収入は約6,300万円を見込み、2004年度は収支トントンの予算案ということになります。
*質疑応答を経て、2004年度の事業方針および予算案も、会場の拍手をもって承認されました。

2003年度TC協会賞
2003年度は、TCシンポジウム大阪開催の実現と継続に尽力された宮崎邦明氏(フリーランス)、山崎敏正氏(松下電器産業)および石崎俊郎氏(シャープ)の三氏に、TC協会特別賞が贈られることになりました。

記念講演「マニュアルデザインの展望」
講師:渡辺 英夫氏(ナレジックス株式会社代表/上智大学講師)
総会に先立ち、現在ナレジックス株式会社代表であり、1985年にはソニー株式会社で同社ドキュメントデザイン部の立ち上げに力を尽くされた渡辺英夫氏が、その独自のマニュアル観を披瀝されました。
■自転車には「乗る」ためのマニュアルはない 自転車には、整備の説明書はあっても、どうすれば乗れるようになるかの説明書はありません。購入者はすでに自転車に乗れる、という前提で販売されているからです。ところが、乗れない人は物理学の知識だけでは自転車に乗れない。にもかかわらず、知識を記述するマニュアルが最近増えているように思います。われわれの経験ベースがどこにあるのかを見据えてかからないといけません。
最近、ある自動車メーカーの製造するハイブリッドカーで、同社のデザイン部長がスターターをうまく使えない、ということが起こりました。音がしないので、いつエンジンが始動したか判別できないのです。購入者に対して、スターターを回しても音がしない、ということを説明しなくてはいけないわけです。これから、こういった事例がたくさん出てくることでしょう。
■マニュアルとカタログの「心」はちがう
IT化によりデータの共用、流用が簡単にでき、コストダウンにもつながっていますが、マニュアルがお客様の身になるのに対して、カタログはお客様を啓蒙する、という異なる「心」で作らなくてはなりません。
(取材・構成 小谷 洋一)

シリーズ:理事会社に聞く
TC協会ニュースでは、協会の理事会社を訪問し、インタビューを行います。今号から、インタビューで伺ったお話を掲載していきます。
ソニー株式会社
会社プロフィール
「自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場」(設立趣意書より)を標榜して井深大氏が創業した、エレクトロニクスとエンタテインメントの一大企業。新たな価値観に基づく新ブランドの製品開発にも力を注いでいる。
多忙な業務の合間をぬって大学や商工会議所でもテクニカルコミュニケーションをテーマに講演を行うという市川統括部長。「TCというこんなすばらしい技術があることを少しでも多くの学生さんや企業、組織に伝えていきたいですね」と情熱は尽きない。
ソニー株式会社のホームネットワークカンパニーでドキュメントデザイン部の統括部長を務める市川美知さんをお訪ねしました。
■マニュアルは、どんな制作体制で作っていますか。
ソニーでは、ビジネスユニットごとにドキュメントデザインのグループが分かれています。大きく、IT・パーソナル系、ホームAV系、ノンコンスーマー系の3つです。ドキュメントに関わっている社員数は国内でおよそ120名。ソニーの場合、2000年まではドキュメント部門は1本化されていましたので、いまでもそのDNAを各グループが引き継いでいるというのでしょうか、全社的にソニーに共通した考えかたのもとに制作を行っています。さらに、各グループを横串でつなぐバーチャルなコミッティーというものが存在し、マニュアルの開発や、制作・管理システムの構築と運用などを行っています。
■今後の課題があればお聞かせください。
ドキュメント部門がユニットごとに分割され、それぞれが独自のアイディアなどを生み出していく中で、マニュアルにおけるソニーらしさを維持していくことですね。
■御社は、TC協会をどのように活用されていますか。
部員に対する春の部内研修と、秋の協会のセミナーをうまく使い分けています。部内研修で指導を受けた新人が、協会セミナーに参加して研修の内容を再確認して帰ってきます。今後は、さらに部内研修で扱うテーマと協会セミナーのテーマの重複を避けるなど、効率的に利用させていただこうと思っています。
■これからTC協会に望まれることはありますか。
ぜひ法人化を実現してほしいですね。ドキュメント部門がいくつかにわかれている現在、共通の後ろ盾としての協会の存在は重要です。その協会が法人格をとれば、ドキュメント部門の専門的な活動を社内に訴求する上でも力が増しますから。その場合、会費の値上げを検討してくださってもいいとさえ思います。
■協会へのアドバイスはございますか。
セミナーの内容の幅を広げられないでしょうか。今、企業の社会的責任が注目されています。発信する情報が「高齢化に対応しているか」「環境問題を視野に入れているか」「法や制度の遵守(コンプライアンス)についてはどうか」の3点はダイレクトに企業の評価につながります。これらについての基礎知識を欠くことは業界の人間としてはずかしい。協会は、高齢化対策はすでに着手していますが、残る2点についても協会が主導していけば、参加企業にとって有益なことと思います。
(取材・構成:三堀 邦夫、小谷 洋一)

株式会社 日立製作所
会社プロフィール
家電の製造販売から情報エレクトロニクス、電力システムの開発まで幅広いビジネスをグローバルに展開。従業員34万人(連結)、売り上げ8兆2千億円(連結)の、歴史と伝統に支えられた巨大企業。
「息子3人が小さいころから野球をやってきたこともあり、ボランティアでシニアリーグの審判をしていたのですが、業務多忙の折、息子の卒業をきっかけに昨年末で辞めてしまいました。今はときどきテニスをするくらいですので、運動不足が気がかりです」と山崎部長。
ソフトウェア事業部テクニカルインフォメーション部の山崎紀之部長と小林栄一主任技師にお話を伺いました。
■現在のマニュアル制作体制についてお聞かせください。
制作しているのは、主にOS、ミドルウェアなどサーバー系のソフトウェアのマニュアルで年間約500種。ライターは主にグループ会社の日立テクニカルコミュニケーションズと日立ソフトウェアエンジニアリングに所属し、マネジャーや支援者も含めて約200名。テクニカルインフォメーション部にも、発注者としてのライターや制作支援を行うスタッフが30名おり、制作や品質に関する方針策定・実行管理などを行っています。
■制作面での課題はありますか。
制作をグループ会社内で実施しているので、品質対費用の市場価値の評価が難しいことです。それから、米国のグループ会社向けにストレージのマニュアル制作も手がけているのですが、国内市場でも製品をリリースするため和文で書き起こして英文に翻訳という手順を踏んでいます。このため、現状では時間とコストにむだが生じています。英日同時制作のうまい方法を模索中で、グローバルな制作体制の構築が望まれています。
■TC協会入会のメリットについてどうお考えですか。また、協会に期待することがあればお聞かせください。
協会の活動はどれも有意義で、社内の活動にリンクさせています。シンポジウムは情報収集と発表の場として不可欠です。当部では技術検定上級を主任の資格要件としていますし、関係会社のライターにも検定合格を推奨しています。受験者のために、試験問題や採点結果の開示はぜひお願いしたいところです。現在、米国STC(Society of Technical Communications)の東京支部の運営にも私どもが関与しているのですが、TC協会と同団体のふたつの活動をするのは効率的でないと感じています。一本化の工夫はできないものでしょうか。それから、当事業所でも若い人たちがまともに仕様書を書けないといった事態が生じており、この状況を考えるとTC協会のビジネスコミュニケーション検定制度の計画には期待するところ大ですね。
■最後に、協会へのアドバイスをお願いします。
協会のホームページにアクセスするにはエネルギーを要しますので、むしろ協会がメールマガジンを発行してはどうでしょう。また、他団体との交流も活発に行えば、さらに情報収集の範囲が広がりますね。
(取材・構成:三堀 邦夫、小谷 洋一)

ハイテクノロジー・コミュニケーションズ株式会社
会社プロフィール
1983年に設立された、ドキュメントの企画・制作・コンサルティング専門会社。「受け手の立場から情報をわかりやすく伝える」ことをモットーに、IT関連はもとより金融、流通業界にいたるまで幅広くドキュメントビジネスを展開し、業界では一目おかれる存在。
日ごろ歯に衣着せずに考えを表明される稲垣さんの趣味は旅行。行く先々でその土地の人たちと触れ合うことが楽しみとか。「イタリアのブリュイユという町に行ってごらんなさい。イタリア側からのマッターホルンの眺望は絶品です。高いところがにがてな私でも、ここに行くとリラックスします」とロマンチストの面も。
ハイテクノロジー・コミュニケーションズ(株)の代表取締役であり、TC協会の副会長も務める稲垣長利氏にお話を伺いました。
■御社でのマニュアル制作の現状をお聞かせください。
制作しているマニュアルの種類は数十種で、電子と紙の比率は2対8と、紙マニュアルが圧倒的に多いのが特徴といえます。年間制作数は、マニュアル以外のドキュメントも含めて100〜150種、これだけの量を約15名のスタッフでこなしていますので、忙しさはご想像いただけるでしょう。
■マニュアル制作における課題とその対応策は?
インターネットが情報提供の枠組みを変えた結果、マニュアル、e-learning、Web上のFAQなどの境界が曖昧になるとともに、新たな視点からの融合や再構築が始まっています。従来のマニュアルという狭い視野しか持たずにいると、マーケットから締め出しをくうことだってあり得ます。そこで、新たな枠組みにおける情報提供やコミュニケーションのありかたに関する見識と方法論を確立し、将来を見据えた技術を導入することが不可欠になるでしょうね。
■TC協会の課題をご指摘ください。
主要会員がIT関連企業に偏っているため、協会の価値が狭められています。マニュアルに特化するにしても、医療、金融、科学などいくらでも会員の対象は広がるはず。ビジネスドキュメントという視点を導入すれば対象はさらに拡大します。新年度に向けての取り組みとして、会員層の拡大のためにビジネスコミュニケーション検定制度を検討しているようですが、手順としては、別の手段で会員層の拡大に取り組むのが先でしょう。そのためには、経済産業省や会員企業などを通して他業界へのアプローチを積極的に行うことです。会費収入が増加するにとどまらず、協会の社会的価値そのものが高まっていくはずです。このためのロードマップの策定を協会に期待しています。
■TC協会をとおして訴えていきたいことはありますか。
「情報をよりわかりやすく」を追求することがどれだけビジネスの経済性を高め、お客様の満足につながるかを社会に伝えていきたいですね。
■最後に、TC協会へのアドバイスを。
副会長として日ごろから感じているのですが、会員企業の協会に対する協力度、理解度に温度差があります。会社規模(受益規模)に応じた協力と負担を会員企業にお願いすべきです。
(取材・構成:三堀 邦夫、小谷 洋一)

TC-INFORMATION
協会の活動
2月19日(木)午後3時から、TC協会事務局の会議室で2003年度第4回および2004年度第1回の理事会が開催されました。
議題は以下のとおりです。
- 2003年度事業報告案の審議および承認
- 2003年度決算案の審議および承認
- 2004年度事業計画案の審議および承認
- 2004年度予算案の審議および承認
- 2003年度表彰についての承認
いずれの議案も、まず運営委員会メンバーおよび各担当スタッフから理事に対して説明があり、それぞれ理事の承認を得ました。

協会短信
活動中のワーキンググループと活動開始予定のワーキンググループがあります。
■カタカナ表記検討ワーキンググループの活動報告 このワーキンググループでは、03年度の活動としてユーザーの視点から表記を見直し「外来語(カタカナ)表記(長音符号編)ガイドライン」を策定しました。
昨今、業界や製品の枠を越えた大きな標準化が進んでおり、家電製品や情報機器でも、業界特有の用語や表記が今後ユーザーをますます混乱させていくことになるという懸念が今回のガイドライン策定の発端です。
今後、ガイドラインを採用いただける企業を募るとともに、関連する工業会や団体にガイドラインの採用を広く呼びかけていく予定です。
また、今年度は長音符号以外の揺れの大きいカタカナ表記に関しても、ガイドラインを検討していく計画です。関心のある方の参加をお待ちしております。
■電子マニュアルマーク標準化ワーキンググループの発足
「電子マニュアル」の認知性を向上させるための業界標準化活動です。現状の電子マニュアルがユーザーに使われていない根本的な問題に着目しています。「CRXマニュアルWG(キヤノン、リコー、富士ゼロックス、セイコーエプソン)」でこの問題を検討し、標準化案を策定しました。しかし、この問題はTC業界全体のテーマとして取り上げた方が得策であるとの考えから、「電子マニュアルマーク標準化WG」して発足することになりました。2004年4月から1年間活動します。
●WGの構成 リーダー:大和田潤治(キヤノン株式会社)
サブリーダー:CRXマニュアルWGのリーダーを予定
メンバー:パソコンメーカー、パソコン周辺機器メーカー、家電メーカーなど10社程度を予定
●活動概要
- 電子マニュアルの標準マーク(ピクト)の策定
- 紙のマニュアルやCDレーベルなどから電子マニュアルへの有効的な誘導方法の策定
- 電子マニュアルの呼称(業界標準)の策定
- Web型など近未来の電子マニュアル像の動向調査

技術検定
2004年2月22日(日)、「2003年度テクニカルコミュニケーション技術検定」が新しい枠組で実施されました。
東京(工学院大学)、大阪をはじめ、団体受験会場を含めて全国6府県7会場で行われました。
全国的に春を飛び越えて初夏を思わせる暑い日、天気予報もよい方に外れ、試験実施には影響がなく無事終了しました。
受験申込者は、「マニュアル制作ディレクション」試験が増えたこともあり昨年より20%余り増加1000名超。旧3級試験に代わった「ライティング初級」試験は昨年とほぼ同数、旧2級試験よりライティング能力の評価を強めた「ライティング上級」は減少でした。受験に前提条件があることや「ディレクション」試験の新設により受験者が移動したと考えられます。
合格発表は3月下旬。受験者には申込書の住所宛てに、合否の通知が郵便で届けられます。また、東京会場、大阪会場については、TC協会のホームページでも合格者の受験番号を公開する予定です。
次回の「TC技術検定」は、同様の要綱で実施予定、9月上旬に本紙およびホームページなどで発表する予定です。
(担当:高橋尚子)
■問い合わせ先
TC協会事務局 検定担当
Tel:03-3368-4607/Fax:03-3368-5087
お問い合わせ先
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おわりに
情報を正しくわかりやすく伝えることは社会において重要なこと。TC技術は、これを実現するための必須の手段です。TC協会が行っている活動のいずれひとつをとっても、社会的に意義のあることばかりです。その活動の内容が今まで以上に協会会員のみなさまに伝わるよう、編集委員一同、気持ちも新たに本紙の発行に取り組みます。今後ともよろしくご支援ください。
(小谷 洋一:TC協会ニュース編集長)
TC協会ニュース 第61号 2004年3月29日発行
*次号は2004年5月25日発行の予定です。

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